上遠野 公一 

<主旨>

日本は木の文化の国です。日本人の生活・宗教文化を育んできた、伝統建築の持つ木の文化をそのままの姿で後世に継承していく事。それは現在の西欧の価値観優先の社会の中にあっても忘れてはならないのではないでしょうか。日本人の精神文化を形成してきた根幹のひとつを忘れてはならないのです。今、この忘れ去られようとしている、日本人の木の文化の伝統の継承は、今に生き、その重要性に気づいた者の責務だと私どもは思量致します。グローバリゼーションと云われる現今、伝統建築文化継承実現のための障壁を取り払い、より自然な形で継承していく事に英知を尽くし、再興させる事が今の日本人にとり、なにより大切な事なのではないでしょうか。 その遂行のためには、木の建築文化にとどまらず、今の西欧優先の生活文化や生活様式を再考して、今一度アジア極東の原点を振り返り、日本生活文化の価値を再評価し、生活様式も含めて改めて人々に訴え、再興を図るべき時代になりつつあるのではと考えます。  日本伝統文化の独自性を保ちつつ現代に相応しく継承していくことこそ、日本のみならずグローバリゼーションの世界に貢献するものです。日本文化はより世界を多様にすることにより、経済だけではなく真に得心のいく豊かさを日本だけではなく世界の人々にもたらすことになるでしょう。

一.日本人が長い時間をかけて培ってきた、日本の風土にあった、建築および生活文化の継承を行う。

一.日本の建築文化の継承に大切な要素は建築技術だけではなく、木の文化を支える林業の文化、稲作から来た畳の文化、厳しい気候条件から建物の屋根を守る瓦や茅の文化、構造と一体となり、外壁をとりなす木舞、土壁の文化等々、建築技術・文化を支える様々な関連する業とその文化についても並行して継承できる環境を醸成する。


<活動内容前文>

伝統建築は、紀元600年頃の百済からの工匠寺工伝来より、1,400年の歴史の継承がされてきました。しかし、それらの技法、文化は現代の経済優先の建築環境の中、もはや断絶が危ぶまれています。我々は今その状況を改善すべく以下の内容を中心に活動致します。多くの方々のご賛同を得ることを願っています。


<調査>

 明治以降の、西洋のいす文化の導入から始まった、国際社会への船出は、その後、西欧優先から優越へと至り、産業も大きく変貌し、建築文化だけでなく文化全般も大きく変わりました。そのため、日本固有の精神文化は既に基盤を失ってしまった状態といえます。このままで滅びてしまわぬよう、祖先からの文化がどのようなものであったかを調査・記録し、さらには継承することが必要だと我々は信じています。


<伝統文化継承>

そのために西欧化がここまで浸透した理由と共に、日本の木の生活文化が衰退した原因を研究し、その成果を踏まえ、改めて木の生活文化の良き点とこの伝統を絶やさぬよう、その利点と大切さを広く訴え、広報致します。さらには、現代において伝統建築が快適さやコストも含めて対応できるよう研究し、一つでも伝統構法の建築が増えるよう勉強会、見学会を行う活動を行います。


<伝統木造構造>

ところが伝統建築をいざ新築しようすると現状では新建材による短期的機能優先の皮相的な家造りや街づくりの視点の法律のため、建造困難な現実があります。新建材による新築主体の建築基準法の構造規定においては、伝統工法が視野にないため、これら法規制によっても伝統建築は衰退を強いられているのが現状です。今後は、逆に長い歴史の中で培われてきた職人の技の集大成でもある伝統構法に基準を合わせた構造規定を作るべきであるではないでしょうか。あるいは特殊建築物として、別の規定の適用が必要ではないかと考えています。それら構造関係規定の改正実現のため、他組織との連携等を行うと考えています。また伝統建築を建造可能とする法解釈の研究や、災害に強い優れた木造建築ができるよう研究、技術開発を行う必要があるでしょう。  残念ながら日本の伝統構法は、古来からの技法であるにもかかわらず、構造解析等の実験や研究は、まだ端についたばかりだからです。「仕口」や「ほぞ」の解析もまだ実験値を蓄積させている段階に過ぎず、寺社建築においては、材料が大口径でもあり、種々の様式がある故、まだ実験値すらおぼつかないのが現状であるため、鉄骨造や鉄筋コンクリート造並みに木造の構造学が発展するようデータの提供に務めます。


<土造>

木造家屋と共にあり、火に弱い木造の耐火性を進化させたものとして江戸時代から発展した蔵造りといわれる土蔵もまたその再現も修繕も困難になりつつあります。これを『土造』と新たに定義し、よりよく建造できるよう研究を行います。


<左官>

土壁の木舞下地による左官技術も同様であり、1,400年の歴史を持っています。また土蔵には欠かせない技能であり、土という素朴な素材を高度な造形にまで高めた世界的にも貴重な伝統技術といえるでしょう。この技術の継承を図る研究会等を開催を致します。


<伝統屋根>

同じく1,400年の歴史を持つ本瓦の製造の技術、そして複雑な技法を要する瓦職人の技術の伝承と産業の継承も日本伝統建築の継承のために、必要不可欠です。甍の連なる街、山林に浮かび街道に並ぶ茅葺きや、茅葺き屋根は日本の美しい風土に欠かせないからです。


<組積造・様式建築>

一方で明治以来の新たな建築文化として組積造があります。皮肉なことに日本の伝統建築文化を破壊した契機となった煉瓦造建造物も既に日本の西欧化を物語る大切な伝統といえます。日本の文化の多様性を語る上でこれも欠かせない建築文化として擬洋風も含め欧米文化吸収過程の様式建築の伝統もなおざりにはできません。成功した西洋化が我々の現在の経済基盤を作ったことも間違いないからです。その西洋受容の建築文化の保存も日本固有の建築文化に欠くことができません。


<山林>

日本には古来より木が豊かに有り、木の建築文化を千年以上積み重ねてきました。これも自然条件の有利さを生かしつつ山林豊かにと大切にしてきた日本建築文化の成果でした。しかし現代には年月を経た木(樹齢300年~400年以上)が山にないという現実に直面するに至ってしまいました。山に年月を経た木がなくては、日本の木の建築文化は衰退してしまい継承も困難となります。特にヒノキは、寺社では柱材として大切な木ですが、名産地といわれる木曽地方にも吉野地方にも、年月を経た大径木はなくなってきました。1,400年続いてきた日本の木の建築文化のためにも、今後の数百年という単位で、日本の山林を大切にして、大径木を残していく方策が必要です。現世代の金銭収入優先で、切られていくばかりしたが、日本の木の文化の継承のためには、日本の森を守り、大きな木を林業の中で残していくための何らかの政策が必要である。その実現のため他組織との連携等を行います。(編:田代洋志)